【体験談・教訓】シリーズでは、筆者が経験・体験、あるいは実際にご本人へヒアリングを行った「キャリアに関するリアルな事例」を紹介します。基本的には1人称の体験談としてまとめています。
内容は転職だけに限りません。部署異動・転属、転勤、出向、辞職…キャリアの岐路では必ず迷いや葛藤があり、決断の連続です。
「どのように悩み、何を考え、どう選択し、結果どうなったのか」
現実に起きた出来事を可能な限り詳細に書き残しています。記事中の名前や部署名、地域名などは特定されないように一部抽象化・調整を加えていますが、エピソードの核となる事象は実際に起きたままです。
第1回は「大学卒業後、中堅商社に入社→営業部に配属された20代男性の最初のキャリア挫折」までの体験談です。
今回の体験者:本田さん(20代・男性)

※画像はイメージ
多少の不安はあったが、印象が良かった企業に入社
私は地方の国立大学を卒業後、22歳で就職活動をしていました。
当時は「就職氷河期」とまではいかなくても、今よりも厳しい時代。大手企業にこだわらず、あえて堅実そうな中堅・中小企業を中心に受けていました。
その中で出会ったのが、都内に本社を置く中堅の商社。
会社説明会に参加したときの印象は良く、最終的に私はその企業に入社することになります。
良かったと思ったポイントは大きく5つ。
- 「ノルマはない」と明言していた
- 販売色が薄く、きつい営業の雰囲気がなかった
- 経営層や先輩社員の話に共感でき、「この人たちと働きたい」と思えた
- 社員同士がフランクで人間関係が良さそうだった
- 「顧客主義」が一貫しており、誠実なビジネス姿勢を感じた
一方で、当時は軽く流してしまった“違和感”もありました。
- 年間休日の記載がなく「週休2日」とだけ書かれていた(実際は土曜出勤あり)
- グループ面談で「一番大変だった時期は?」と聞いた際、先輩社員が明確に答えなかった
- 口コミサイトにやや不安な書き込みがあった
今振り返れば、冷静に見れば気づくべきサインでした。
しかし当時の私は第一志望に決まった安心感や「就活を早く終えたい」という気持ちから、「大丈夫だろう」と見て見ぬふりをしていました。
大学4年の5月に内々定を獲得し、他社を辞退。
内定式では経営層や先輩社員との食事会もあり、「ここで頑張ろう」という期待で胸を膨らませていました。
同期7人で飲みに行った時も「休み少なめって逆に丁度いいよな」と笑い合うほど、当時は前向きでした。
「正直、営業はしたくない」が本音の新卒が営業部へ
入社後の4月。初めての一人暮らしを始めた私は、毎日弁当を自作して持参するほど気合い十分でした。
最初の1か月間は基礎研修で、特に問題もなく、同期と切磋琢磨しながら楽しく学んでいました。
ところが2か月目の配属発表で、同期7人中5人が営業部へ。私もその中に含まれていました。
正直に言うと「営業は向いていないのでは」と入社前から感じていました。
それでも「この会社でなら頑張れるかもしれない」と、自分を奮い立たせて受け止めました。
営業部の仕事は、“飛び込み営業”が中心。
会社説明会では「ノルマはない」と言われていましたが、実際には“目標”が設定され、それを達成することが当たり前に求められました。
ここで感じた違和感をある先輩に話したら、「あ~ノルマはないって話は僕らの時の説明会でもしてたよ。実際は目標がノルマみたいなものだから、達成は絶対だね」と言われます。
「まあ、そんなものか」と納得する自分もいましたが、会社説明会の際の雰囲気やニュアンスとは、いわゆる“入社後ギャップ”を感じた瞬間でした。
それでも救いだったのは、先輩たちが明るく、社内の雰囲気が良かったこと。
同行期間は楽しく学べ、チームとして活動している感覚もありました。
この時点では「辛くても乗り越えられるはず」と信じていました。
体育会系のノリで乗り切る日々…でも「これ、いつまで続くの?」
営業活動を始めた当初は、同期との競争意識や「この経験が将来の糧になる」という気持ちで頑張れていました。
入社半年後、一人立ちした私は、同行時に成果が出ていたことを評価され、いきなり厳しめのエリアを任されることに。
当然、思うように成果は出ません。
落ち込むこともありましたが、「同期も頑張っている」と自分を奮い立たせ、あえて残業して活動時間を延ばすこともありました。
その努力もあり、ほぼすべての目標を期間内に達成。
上司や先輩からも評価されました。
しかし、心の中では次第に不安が募っていました。
- 「目標を達成しても、次のエリアに移ればまたゼロからやり直し」
- 「この繰り返しを何年も続けられるのか」
まるで“賽の河原”のように、石を積んでもすぐに壊され、またゼロから積み直す…そんな虚しさが拭えませんでした。
もちろん、喜んでくれるお客様もいて、やりがいが全くなかったわけではありません。
ですが、心のどこかで「この日々にやりがいを感じられないのは、自分に営業の適性がないからではないか」と悩み始めていました。(第2回へつづく)
体験談からの教訓|就職前の違和感を見逃さない
今回の事例から得られる学びは、「営業の適性」だけにとどまりません。就職活動やキャリア選択を考えるうえで、多くの人に共通するポイントが浮き彫りになりました。以下では、特に重要な3つの教訓を整理します。
小さな違和感を軽視しない
入社前に感じた「休日が曖昧」「先輩が答えにくそうにする」といったサインは、後になって現実として露呈しました。違和感は単なる思い過ごしではなく、将来に影響するリスクの兆候である可能性があります。早い段階で確認・調査する姿勢が欠かせません。
「できる」と「続けたい」は別物
営業で成果を出せても、それが「自分のキャリアにとって続けたい仕事かどうか」は別の問題です。短期的な評価や達成感に満足しても、長期的にやりがいを感じられないなら心身の負担につながります。成果と適性を混同しないことが重要です。
環境に流されすぎない
体育会系の雰囲気や同期との一体感に支えられても、それは一時的なモチベーションにすぎません。周囲に合わせるだけでは限界があり、結局は自分自身の価値観や適性に基づいた選択がキャリアの持続力を左右します。
まとめ
- 入社前から“違和感”はあったが、就活を早く終えたい気持ちで見過ごした
- 営業は「できるかもしれないが、続けたいとは思えない」仕事だった
- 体育会系ノリと同期意識で序盤は乗り越えられたが、半年後から虚しさと不安を感じ始めた
次回は「同期退職が相次ぎ、営業部に1人残された孤独」「負担増で限界を迎え、転属を意識し始めるまで」を紹介します。


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